明日の東播海岸を考える懇談会

第22回懇談会

日時 : 平成14年 2月21日 13:30~14:30

場所 : グリーンヒルホテル明石

項目

ウミガメが上がる砂浜とそれを維持する仕組み

日本ウミガメ協議会会長/東京大学大学院農学生命研究科客員助教授 亀崎直樹氏
  • 明石の海岸に上陸するのはアカウミガメで、500万年の地層から出た化石とほとんど形が変わっていないことから、生きた化石と言われている。
  • 日本で昨年記録された産卵数は3,000程であるが、1匹が2~3回上陸することを考えると、日本に毎年やってくるメスのアカウミガメは約1,000匹と考えることができる。日本全体で1,000匹しか上がってこないとなると、やはり少ないと言わざるを得ない。
  • ウミガメの産卵期は5~8月で、九州南部から静岡にかけて上陸するが、まれに大阪湾まで入ってきて産卵すると考えられている。
  • 1967年に西村三郎が日本におけるウミガメの産卵する砂浜を記録しており、それによると、かつては東播海岸から神戸にかけて、ウミガメが産卵に使っていたと記載されている。
  • ウミガメの卵は自然状態で、50~70日程かけてふ化し、砂から出ると一目散に海に向かって行く。彼らは海の白波をみて海の方向を判断していると言われており、山の方が暗く、海の方が若干明るい海岸がウミガメの上陸する浜の特徴である。しかし、都市部の海岸では夜でも明るく、ふ化したウミガメは海の方向を見失い、ぐるぐると迷ってしまう。
  • ウミガメの産卵には、表面からある程度厚みのある砂浜が適しており、ウミガメが上陸する砂浜で海岸護岸工事をする際、砂浜の深さについて配慮してもらった。
  • 自然状態でカメが産卵する場所は、砂だけの砂浜ではなく、植物が周囲に植わっている所である。陸側に緑地帯(安定帯)があり、そして波に洗われる砂浜部(不安定帯)、そして海域があるというような海岸である。
  • 「不安定帯」に産卵すると卵が波に流され、また、「安定帯」では波に洗われないことで有機物が増加し、砂中の酸素濃度が低下するので、どちらも産卵に適さない。そのため、ウミガメは「安定帯」と「不安定帯」の境目あたりで産卵する。
  • ウミガメの産卵には植物が重要である。しかし、今まで、ウミガメの産卵において植物は一切配慮されなかった。全国で展開されている「エコ・コースト事業」では、海岸の植生帯を幅広く削り、コンクリートで固めてしまっている。そのため、ウミガメは上陸してもどこに産卵してよいのかわからなくなってしまう。
  • 他にも、ウミガメの産卵で問題となっているのが港湾工事である。大規模な港湾工事や海岸侵食対策として整備される離岸堤によって漂砂が捕捉され、漂砂の下手側の海岸が侵食されている。それに伴ってウミガメの上陸も減少している。また、離岸堤等の消波機能の向上によって砂浜の安定化が促進され、安定帯が海岸線付近にまで広がり、陸域化が進む。それはウミガメの産卵にとって決して良いことではない。
  • 最近の調査から、ウミガメは産卵に適した海岸を見極めるために、海岸付近の海面から顔を出し、植生帯の緑と砂の白の際のラインと海面の高さを考慮していることがわかっている。また、海岸の分解者であるゴミムシやダンゴムシは日中は植生帯に生息しており、植物を残すことは海岸のゴミ分解者を維持することにもつながる。
  • ウミガメにとって砂は卵を生むために必要であり、砂にとって植物は流出を防止するために必要である。植物がウミガメの産卵の指標になっているから、ウミガメ・砂・植物はそれぞれが健全に生存する必要がある。
  • 今回、最も主張したいのは、ウミガメの上陸を強く望むのであれば、砂と海がある環境だけでなく、植物帯と砂浜、そして沖に続く海の環境をセットにして考えてもらいたいということである。

白砂青松

姫路工業大学教授 服部保氏
  • 「白砂青松」という言葉は、自然性の高い美しい海浜景観を示す言葉としてよく使われる。しかし、海浜のクロマツ林は人工的に育てられた二次的な植生である。
  • 東播海岸においては海浜植生の再生が求められており、各地の海浜でもクロマツの保全や復元、創出が進められている。
  • 日本の砂浜における植生の分布では、まず海があり、そこから常に波が打ち寄せて砂の移動が激しい不安定帯(ハマニンニクやコウボムギ、オニシバ等)、波が途切れる半安定帯(一年草・多年草植物群落、ハマボウフウやケカモノハシ等)、内陸の草や低木群落(チガヤ・ハマゴウ等)、その後ろにクロマツ林が存在する。
  • クロマツ林の分布を区分すると、海浜の人工林、海岸の断崖絶壁に生えている一部自然林が混ざったもの、海岸付近の丘陵地帯にある人工林、桜島や伊豆、その他溶岩地帯の初期相としてのクロマツ林と4つのタイプに分けることができる。
  • クロマツは明るい場所でよく育つので、波で侵食されてできた絶壁に生育したり、溶岩場に生育する。また、新たな海浜ができたときに最初に入ってくるのがクロマツである。
  • 人工的なクロマツ林は、マツの枯れ枝や落葉落枝を燃料として利用したり、防風林や防潮林の目的で植樹されたものである。また、材木用としても植林されている。他の木では海浜の潮風に耐えられず、ほとんど植物が育たないので、潮に強いクロマツが植えられた。このようにクロマツ林は、大きく分けると天然林と人工林に分けられ、白砂青松は自然景観そのものを表す代表的な言葉であるが、実は人工的に作り出した景観である。
  • 溶岩地帯などの裸地には、まずクロマツの低木林が侵入し、その後成長したクロマツの林床にタブノキ等(照葉樹)が生え、最終的には極相のスダジイ(照葉樹)へ300~400年程かけて遷移していく。
  • クロマツを消失させる原因はマツクイムシによる松枯れと、放置することによる植生遷移の進行等が挙げられる。また、白砂青松として名高い各地の海岸では、近年、松枯れの被害が大きく、落葉落枝を燃料として使用しなくなったことから林床の手入れも頻繁には行われず、松林は荒れ、松林を維持する事が難しくなっている。
  • 白砂青松型海岸を維持するには、景観を重視した人工林であるため、より細やかな手入れが必要である。

質疑応答

Q 人工的に養浜した場合、その仕方によっては悪影響が出てくるものなのか?(那須姫路工事事務所長)
A 養浜した海は驚くほど美しい。これは、打ち上げる波が砂によって濾過されることによる。その一方で波が砂を運ぶため、次々と砂を補った結果、悪影響を及ぼす貝類や菌類が増加している。流されたものをそのままにするのではなく、元に戻すことで、ある程度問題は解消されるように思う。(南氏)
Q 昔、舞子の浜や明石の港には茶屋などが立ち並び、にぎわいのある風景であったということだが、それを示す絵図などは残っているのか?(加納委員)
A 橋本海関が「明石名勝古事談」を残しており、1~10巻に明石の歴史や名所を紹介している。当時の舞子・中崎海岸には阪神から訪れる海水浴客用の旅館が立ち並んでいたとのことである。(神足氏)
人工海浜への植栽について
  • 広さが十分にあるのだから、もっと木を植えてもらいたい。植物は酸素を供給したり、沿岸に影をつくって魚に産卵の場を提供したりする。魚を守るためにも、今後人工的な海浜をつくる際には、どんどん植栽してもらいたい。(南氏)
  • 普通の木では潮風によってすぐに枯れてしまうので、海浜植物を広い砂浜に集めて、植物園などをつくってもらいたい。山と海は川を通じて繋がっている。海岸だけではなく、遠く離れた場所に植栽することでも効果を得られるはずである。どこでもかまわないのでたくさんの植物を植えてもらいたい。(聴講者)
  • 我々も海浜植物の復元に興味を持っている。今後検討したい。(那須姫路工事事務所長)
  • 事務局は昨年から試験的ではあるが、海浜植生の復元を目指している。具体的には、ハマボウフウなどの自生に取り組んでいるところである。(事務局)
事務局からの補足説明
改正海岸法について
  • 昭和31年の海岸法制定で現行のような体制が整った。
  • 当時の海岸法の概念は台風や大地震等による高潮・波浪・津波等から人命や資産を防護するという役割を担ってきた。
  • 近年、環境保護への意識の高まりや海岸域の植生が破壊されているなど種々の問題が出てきているため海岸制度の改正が必要となってきた。
  • 以上の状況を踏まえ、海岸4省庁(農林水産省・水産庁・運輸省・建設省)が取り組み、平成11年に海岸法が一部改正された。
  • 改正海岸法の主なポイントは、
    1.防護一点張りではなく、環境・利用も含めた調和のとれた総合的な海岸管理制度の創設
    2.地域の意見を反映した海岸整備の計画制度の創設
海岸植生の復元について
  • 平成12年度に2回(6月・9月)、松江漁港の西側で植栽試験を行っている。
  • 昨年6月に植栽したものは、秋までに枯れてしまい、ほとんど残っていない。
  • 昨年9月に植栽したものは、今年7月現在で当時の約65%が残っている。
  • 種類は瀬戸内海に多く見られる7種類を選定。
    ハマナデシコ、ハマエンドウ、ハマダイコン、ハマボウフウ、
    ハマボッス、ハマヒルガオ、ハマゴウ