明日の東播海岸を考える懇談会

第19回懇談会

日時 : 平成13年 6月19日

場所 : ホテルキャッスルプラザ

項目

海浜植生と海浜の幅について-遠州海岸での調査結果から

海浜植生とは
  • 「海浜植生」とは、海浜に成立する草原や高さ1m程度の小さな低木林をいう。
  • 海浜植物は、貧栄養、乾燥、砂の移動、高温、高い塩分濃度などの厳しい環境に耐えられる特有の植物である。
  • 代表的な海浜植物の例として、オカヒジキ、コウボウムギ、ハマヒルガオ、ハマニガナ、ハマグルマ、オニシバ、ケカモノハシ、ハマボウフウ、ハマゴウ、ビロードテンツキなどが挙げられる。ほとんどの種類が発達した地下茎や根を持ち、また、葉は肉厚であったり、毛が生えていたりして、乾燥に耐える形態を有している。
  • 海浜には「打ち上げ帯」「不安定帯」「半安定帯」「安定帯」とよばれる帯があり、個々の環境に応じた群落が成立する。
海浜植生の危機
  • 海浜植物は、海浜でしか生きていけない。
  • 自然植生は、植物全体の約20%しか残っておらず、その中でも特に、海浜植物は、0.7%と極めて少ない。この数値は、高山植物(0.3%)に次ぐ値であり、如何に海浜植物が希少であるか分かる。しかしながら、大変貴重がられ、しかも手厚い保護を受けている高山植物に対して、海浜植物はその希少性が認識されないまま、粗雑に扱われている。
  • この希少な海浜植物が生息する自然海浜も減少し続けている。
  • 海浜植物を圧迫する要因としては「内湾の埋め立てや防潮堤の建設」による海浜の減少と「レジャー関連施設の建設、海水浴場やキャンプ場の整備」「オフロード車の侵入」(下記写真参照)が挙げられ、現存する自然海浜の保護に加えて、海浜植物の保護も必要である。
海浜植生と海浜幅の関係:海岸侵食と海浜植生との関係(遠州海岸からの考察)
  • 海浜幅が広いほど多様な群落が見られる。そして、海浜幅が狭くなるにつれて、欠落する群落が多くなり、単純化する傾向が見られる。
  • 海岸侵食の大きな原因の一つとして、河川改修工事や砂防ダムの建設等による河川からの土砂供給量の減少が挙げられる。このような河川管理の方法が、河川の植生のみならず、海岸の植生にも影響を及ぼしていると考えられる。
海浜植生の保全のために
  • 埋立や防潮堤の建設といった海岸整備によって海浜が消失し、さらに、海岸侵食も海浜を消失させる大きな原因となっている。
  • 海浜植生を保全するためには、海岸侵食対策による浜幅の確保が必要であり、さらに、人工海浜では海浜植生が生きていける環境を復元する努力が必要である。
  • 侵食対策としては、河川からの土砂供給を優先させた対策が望まれる。

淡路島の海水浴場における海浜植物の保全に向けて-人工海浜を用いた保全を考える

阪府立大学大学院農学生命学科研究科 押田桂子氏
淡路島の海岸
  • 淡路島の自然海岸、砂浜も近年失われつつあり、日本独自の砂浜景観が失われている。
  • 淡路島の砂浜のほとんどが海水浴場に指定され、利用者中心の管理を行うため、海浜植物が生息できない状態となっている。
  • 東海岸よりも西海岸の方が海浜植物の種数が多い。これは、海浜断面や潮流、来襲波の大きさによって、着生のし易さに差ができると考えられる。
  • 海浜の幅が広く、面積が広いほど種数は多く、さらに人工海浜では開設年度が古いほど種数は多くなる。
海浜植物の保全のあり方
  • 種が多様化している自然海浜でもそれを維持していくには困難な状態である。そこで、新規に造成する人工海浜に海浜植物を植栽し、自然に広がるようにする方法がある。
  • 植栽する種は、遺伝子の攪乱を避けるために、近隣の海岸の植物の種子や苗を使用する等、慎重な選定が必要である。
  • 人工海浜では、一定以上の海浜面積の確保、さらに、利用の制限を行い、現状維持に努めることが必要である。
  • 人工海浜では、時間経過による回復が期待できるものの、種の多様性が期待できないので、植栽による増殖が必要である。

質疑応答

Q 海浜の管理について、砂浜らしい砂浜が望まれ、環境の攪乱は除外されがちであるが、生物にとって環境の攪乱が必要というのであれば、設計の中にどのように盛り込めばよいのか?(鷲尾委員)
A 攪乱が起こらなければ、帰化植物ばかりになってしまう。多様な種を維持したいとするならば、ある程度の攪乱が必要ではないか。(澤田氏)
Q 植生の回復として、どこまで期待してよいものか?(鷲尾委員)
A 回復という観点からすれば、種によって異なるがある程度の回復は見込めると考えられる。しかしながら、当該海岸では厳しい海象(速い潮流等)の影響もあり、積極的に、海浜植物を植栽するのが望ましい。(押田氏)

「千鳥」と「松林」との関係について
  • 「千鳥」の姿がみられなくなったのは、人の管理が厳しいことと、利用者が多すぎることが挙げられる。(押田氏)
  • 松がなくなったから「千鳥」が見られなくなっている。(小泉委員)
  • 「千鳥」は、砂地の草の間に巣を作り、卵を孵化させる。松林は巣作りを行う上で、隠れ場所として必要かもしれないが、松があれば「千鳥」が住めるという1対1の関係ではない。(鷲尾委員)
  • 松が増えすぎると地面が固くなって巣が作れない状態になる場合もある。松だけではダメで、海浜植物が生えることができる砂浜も必要である。(押田氏)
  • 東播海岸にとっても、淡路島にとっても、万葉の頃から詠われている「千鳥」がいなくなったことは恥である。是非とも「千鳥」が帰ってくるようなアイデアを出してほしい。(小泉委員)
  • 人が多いと追い払っているようなものであるから無理である。人が入れないようにして、しかも海浜植物を守るような対策を講じる必要がある。(栃本委員)
海浜植物の植栽について
  • 海浜植物を移植するということには反対である。元あった環境を復元することが重要である。珍しい海浜植物を繁殖させたいのであれば、海岸の一部を仕切って、植物園的に作ればよい。移植する場合には、周辺環境への影響についても十分検討した上で実施すべきである。(小野氏)
  • 海浜植物は繁茂させると海水浴場としての価値は下がる。「自然を復元する」ということと、「海水浴場として楽しむ」ということは両立しにくいのではないか。(小野氏)
  • 海浜植物は、強いものであるが、競争には弱く、他の植物が生きていけない海浜部に生存の場を移した。そこを人が踏み荒らすのでなくなってしまう。よって、競争相手をなくし、人が管理してやれば海浜植物はどこでも育つことができる。(小野氏)
  • 海水浴場の中でも全く人が踏みいらないところがあるはずであり、そこから広げるべきである。そこに、日本の砂浜はこうであったということを学習してもらい、全体的な海浜植物の保全につなげたい。(押田氏)
  • 移植もやり方である。海岸線に飛び飛びである海浜は個々に独立しているが、海流を通じてつながっている。その流れの中で、種が1つ1つなくなっているので、全体的に絶滅が危惧される貴重種が存在することになる。以前そこにあった植物を移植しても無駄ではない。人の手で切れかかっているつながりを作ってやるのも1つの方法である。(澤田氏)
  • 神戸市のアジュール舞子でも人工的に植栽を実施したが、ハマヒルガオしか残っていない。現場に適した植物を自然に任せて繁殖させる。そこでは、人を排除するのではなく、人と植物が協調できるようにすべきである。(重野委員)
  • 環境に適応できる植物を闇雲に入れると周辺環境を阻害する恐れがある。一度入れて広がってしまうと後で排除できなくなる。十分吟味した上で実施すべきである。(澤田氏)